「会期まで、あと6週間。動画は必要だけど、社内の承認はどう回す?撮影は本当にやる?——」余裕をもってスタートしたはずの展示会の準備は、なぜかいつも慌ただしくなりがちです。
この記事は、展示会向けの動画を制作するためのスケジュールとして、“理想論”でなく現実に回る進め方にこだわりました。
ぜひご一読いただき、これからの動画制作の参考にしてください。
この記事の要点
- 結論:展示会動画の標準的な制作期間は約6~8週間。ただし、これは発注側の協力と迅速な意思決定が前提。
- 目安:短納期なら約4週間、既存素材を活用した特急対応なら約2週間でも可能だが、相応の制約と追加コストが発生する。
- 注意点:最も遅延しやすいのは「承認・修正」工程。事前に関係者を絞り、フィードバックのルールを明確化することが成功の鍵。
- 次の一歩:まずは「会期日から逆算したスケジュール表」で全体像を把握し、動画の目的を明確にすることから始めましょう。詳しくは展示会動画の目的設計ガイドで解説しています。
制作期間の結論と全体像(標準・短納期・特急の3モデル)
展示会動画の制作期間は、動画の内容や制作体制によって大きく変動します。ここでは、典型的な3つのモデルを提示し、それぞれの前提条件や注意点を解説します。
モデル | 期間 | 前提条件 | クリティカルパス | 修正回数目安 |
---|---|---|---|---|
標準モデル | 約8週間 | 企画から丁寧に進行。関係者との合意形成を重視。 | 構成案のFIX、初稿の承認 | 2回 |
短納期モデル | 約4週間 | 承認者2名以内、48時間以内のFB、修正指示は1回に集約。 | 素材提供、初稿承認 | 1〜2回 |
特急モデル | 約2週間 | 既存アセットの活用、撮影なし、修正は軽微なもの1回のみ。 | 素材提供、構成FIX | 1回 |
標準モデル(約8週間)— 品質とスケジュールのバランス重視
品質を担保しつつ、現実的なスケジュールで進行する最も一般的なモデルです。企画から撮影、編集、修正まで、各工程で十分な時間を確保します。
W1〜2は「目的・KPI・サイネージ仕様」を握り切る期間。W3〜4でデザイン/編集の仮組み、W5で初稿、W6〜7で修正、W8で実機テストと最終チェック。“最初の2週で迷いを潰す”ほど、後ろの修正が軽くなります。
短納期モデル(約4週間)— 迅速な意思決定が必須
「出展まで時間がないが、クオリティは妥協したくない」という場合に選択されるモデル。発注側の協力体制と、迅速なフィードバックが成功の鍵となります。
W1に構成とメッセージを一気に確定。W2で初稿、W3で修正、W4で納品&実機。承認者は2名以内/48時間以内のフィードバック固定が鉄則。“悩みは会議ではなく原稿に書く”が合言葉です。
特急モデル(約2週間)— 既存アセット活用が前提
緊急対応のモデル。新規撮影は行わず、既存の動画素材や3DCG、Webサイトの画像などを最大限に活用して制作します。
撮影は原則なし。既存のBロール・3DCG・製品画像を棚卸しして即日共有。Day3で初稿、Day5で修正、Day10で書き出し・実機。“完璧より完了”の判断軸を共通言語に。
展示会向け動画制作における、工程詳細と役割分担(発注側/制作会社/施工会社)

企画・要件定義(目的/KPI/サイネージ仕様FIX)
このフェーズが最も重要です。動画の目的(集客、滞留、商談化)を明確にし、KPI、動画の役割を設定します。また、展示ブースの施工会社と連携し、サイネージ・ディスプレイの位置を確定させます。
素材準備/撮影/制作(MG/実写)
企画内容に基づき、モーショングラフィックス(MG)や実写撮影を行います。発注側は、製品の3DCGデータやロゴデータ、既存の動画素材などを速やかに提供する必要があります。
レビュー・修正(初稿→2稿→最終/修正ルール)
制作会社から提出された初稿に対し、フィードバックを行います。修正指示は、関係者の意見を集約し、担当者が一元化して伝えることが重要です。
書き出し・実機テスト・納品
最終版の動画を、サイネージの仕様に合わせて書き出します。納品後は、必ず展示会本番で使用する機材で再生テストを行い、問題がないかを確認します。
週次ガントチャート(サンプル表)
ここでは、標準的な「8週間モデル」のガントチャートをサンプルとして示します。タスクの依存関係と担当者を明確にすることが、プロジェクト成功の第一歩です。
8週間モデル(WBS × 週次タスク × 担当)
WBS | タスク | W1 | W2 | W3 | W4 | W5 | W6 | W7 | W8 | 担当 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1.企画 | 目的/KPI設定、仕様FIX | ● | 発注/制作 | |||||||
1.企画 | 構成案/絵コンテ作成 | ● | 制作 | |||||||
1.企画 | 構成案FIX | ● | 発注側 | |||||||
2.制作 | 素材準備/提供 | ● | 発注側 | |||||||
2.制作 | デザイン/編集 | ● | ● | 制作 | ||||||
2.制作 | 初稿提出 | ● | 制作 | |||||||
3.修正 | 初稿レビュー | ● | 発注側 | |||||||
3.修正 | 2稿制作 | ● | 制作 | |||||||
3.修正 | 2稿レビュー | ● | 発注側 | |||||||
4.納品 | 最終版制作 | ● | 制作 | |||||||
4.納品 | 実機テスト | ● | 発注/施工 |
4週間モデル(短縮の要点)
4週間モデルでは、各工程を並行して進める必要があります。例えば、W1で構成案を作成しつつ、発注側はW2の素材準備を前倒しで進めます。レビュー期間も各3日以内に限定するなど、タイトな進行が求められます。
WBS | タスク | W1 | W2 | W3 | W4 | 担当 |
---|---|---|---|---|---|---|
1.企画 | 目的/KPI設定、仕様FIX | ● | 発注/制作 | |||
1.企画 | 構成案/絵コンテ作成 | ● | 制作 | |||
1.企画 | 構成案FIX | ● | 発注側 | |||
2.制作 | 素材準備/提供 | ● | 発注側 | |||
2.制作 | デザイン/編集 | ● | ● | 制作 | ||
2.制作 | 初稿提出 | ● | 制作 | |||
3.修正 | 初稿レビュー | ● | 発注側 | |||
4.納品 | 最終版制作 | ● | 制作 | |||
4.納品 | 実機テスト | ● | 発注/施工 |
2週間モデル(制約と割り切り)
2週間モデルは、実質的に「編集・修正」のみの工程です。W1前半で既存アセットを支給し、構成をFIX。W1後半で初稿を提出し、即日レビュー。W2で修正と納品を完了させます。品質よりも「間に合わせること」が最優先されます。
WBS | タスク | W1 | W2 | 担当 |
---|---|---|---|---|
1.企画 | 目的/KPI設定、仕様FIX | ● | 発注側 | |
1.企画 | 構成案/絵コンテ作成 | ● | 発注側 | |
1.企画 | 構成案FIX | ● | 発注側 | |
2.制作 | 素材準備/提供 | ● | 発注側 | |
2.制作 | デザイン/編集 | ● | 制作 | |
2.制作 | 初稿提出 | ● | 制作 | |
3.修正 | 初稿レビュー | ● | 発注側 | |
4.納品 | 最終版制作 | ● | 制作 | |
4.納品 | 実機テスト | ● | 発注/施工 |
ミニケース:実際に2週間で間に合わせた手順
- Day1(午前):既存素材を共有(過去動画・Web画像・3DCG・ロゴ・フォント)。不足は「代替案」を即決。
- Day1(午後):15/30/60秒の3尺で構成骨子を確定(テロップ文言までテキスト化)。
- Day3:初稿提出。テロップ・尺・差し替え素材だけにFBを限定。
- Day5:修正版提出。H.264/MP4で一旦書き出し、実機でジャギー/黒み/ループ継ぎ目を確認。
- Day7〜10:最終版→サイネージで通し再生テスト。USB×2/クラウドでバックアップ。
承認・修正を遅延させない仕組み
プロジェクトの遅延原因の9割は、承認・修正工程にあります。これを防ぐための実務的な仕組みを3つ紹介します。
承認者の集約 / FB様式(テキスト一元化)
最終承認者を事前に1〜2名に絞り込みます。関係各所からのフィードバックは、必ずプロジェクト担当者がExcelやスプレッドシートに集約し、制作会社には一本化されたテキスト情報として渡すルールを徹底します。
修正回数と範囲の合意
キックオフの段階で、「初稿提出後の修正は2回まで」のように、修正回数と、その範囲(例:テロップ修正は可、構成変更は不可)を明確に合意しておきます。これにより、無限の修正ループやスコープ外の要求を防ぎます。
バッファ設定(全体の10〜20%)
どれだけ緻密な計画を立てても、不測の事態は起こり得ます。全体のスケジュールに対し、10〜20%程度のバッファ(予備日)を設けておくことで、軽微な遅れを吸収し、最終的な納期遵守の確度を高めます。
会期日からの逆算テンプレ
展示会動画のプロジェクトは、会期日から逆算して計画を立てるのが鉄則です。以下に、標準的な8週間モデルをベースにした逆算チェックリストを記載します。
- T-56(8週間前):制作会社へ打診、オリエンテーション実施。目的・予算・KPIのすり合わせ。
- T-28(4週間前):構成案・絵コンテFIX。撮影が必要な場合はこの時期までに完了。編集作業が本格化。
- T-14(2週間前):初稿レビューとフィードバック。修正指示を一元化して提出。
- T-7(1週間前):最終版の動画データ納品。
- T-1(前日):展示会場での設営。実機での最終再生テスト。バックアップの確認。
- 当日:安定したループ再生を確認。ブーススタッフへの操作説明。
- 会期後:お礼メールでの動画活用、Webサイトへのアーカイブ掲載。
今すぐできる次の一歩:テンプレに会期を入れてWBSを自動計算 → 承認者2名・FB締切48時間を会議体で先に合意 → サイネージ・ディスプレイの位置を確認。ここまでで遅延の8割は防げます。
テンプレ(8週/4週/2週のWBS・FB集約シート)が必要でしたら、こちらから無料でお送りします。
無料テンプレートが必要な方はこちらよりお問い合わせください。
短納期で間に合わせるテクニック

「どうしても時間がない」という状況でも、諦めるのはまだ早いです。ここでは、短納期を実現するための3つの実践的なテクニックを紹介します。詳細は短納期で間に合わせる工程設計の記事でも解説しています。
既存アセット流用(3DCG/過去動画/Web画像)
最も効果的な時間短縮方法は、新規の素材制作をゼロにすることです。製品紹介サイトの画像、過去の動画のBロール、製品の3DCGデータなど、手持ちの資産を棚卸ししましょう。これらを組み合わせるだけでも、十分に魅力的な動画は制作可能です。
デザインテンプレートや購入素材の活用
多くの制作会社は、過去に制作したデザインのテンプレートを保有しています。また、購入素材を活用することで、企画・デザイン工程を大幅に圧縮できます。
撮影を行う最小構成(半日×1・インタビュー中心)
どうしても実写が必要な場合は、撮影規模を最小限に抑えます。例えば、撮影を「半日×1回」に限定し、製品のデモや開発者インタビューなど、要点を絞った撮影に集中します。これにより、撮影準備やロケハンにかかる時間を削減できます。
納品仕様と実機検証(落とし穴集)
動画データが完成しても、それが展示会場で正しく再生されなければ意味がありません。ここでは、納品ファイルの仕様や、現場での再生テストにおける「落とし穴」を解説します。
推奨出力(MP4/H.264/AAC/1920×1080・10〜20Mbps)
最も汎用性が高く、トラブルが少ない納品仕様は以下の通りです。制作会社に依頼する際は、この仕様をベースに、使用するサイネージのスペックに合わせて調整してもらいましょう。
項目 | 推奨仕様 | ポイント |
---|---|---|
ファイル形式 | MP4 | 最も汎用性が高いコンテナ形式。 |
映像コーデック | H.264/AVC | 圧縮率と画質のバランスに優れる標準的なコーデック。 |
音声コーデック | AAC | 無音動画でも音声トラックを含んだ形式が一般的。 |
解像度 | 1920×1080 | フルHD。縦型サイネージの場合は1080×1920。 |
ビットレート | 10〜20Mbps | 画質とファイルサイズのバランスが良い。これより低いと画質が荒れる可能性。 |
推奨納品仕様チェック表 ループ設定/無音前提/輝度・コントラスト
展示会動画特有の注意点です。
動画の最初と最後を自然につなぎ、ループ再生時に違和感がないように編集します。
また、無音で再生されることを前提に、テロップやグラフィックだけでも情報が伝わるように設計します。会場の照明は明るいため、PC画面で見るよりも輝度やコントラストを若干高めに設定すると、視認性が向上します。
当日トラブル対策(バックアップ/電源/簡易マニュアル)
- バックアップ:動画ファイルを入れたUSBメモリを複数本用意。再生用PCも予備機があると万全。
- 電源管理:PCのスリープモードやスクリーンセーバーは全てOFFに。電源ケーブルが抜けないよう、養生テープで固定。
- 簡易マニュアル:再生手順やトラブルシューティングをまとめたA4一枚程度のマニュアルを用意し、ブーススタッフ全員が対応できるようにしておく。
よくある質問

- 展示会動画の制作期間はどのくらい?
-
標準的な制作期間は約6~8週間です。ただし、これは発注側の協力と迅速な意思決定が前提となります。短納期の場合は約4週間、既存素材を活用した特急対応なら約2週間でも可能ですが、相応の制約と追加コストが発生します。
- 制作スケジュールが遅延する最も多い原因は?
-
最も多い原因は「承認・修正」工程の遅延です。関係者の意見調整に時間がかかったり、後からスコープ外の修正要求が出たりすることで、スケジュールが大幅に圧迫されるケースが後を絶ちません。
- 会期まで1ヶ月を切ってしまった場合、どうすればいい?
-
まずは制作会社に相談しましょう。既存の動画素材や製品の3DCGデータ、Webサイトの画像などを活用する「特急モデル」であれば、約2週間での制作も可能です。品質よりも「間に合わせること」を最優先とした進行となります。
- 制作会社への見積もり依頼はいつ頃がいい?
-
会期の3ヶ月前、遅くとも2ヶ月前には依頼するのが理想的です。複数の会社から見積もりを取り、比較検討する時間を考慮すると、早めに動き出すに越したことはありません。
- ブース施工会社と制作会社、どちらに先に相談すべき?
-
両者に同時並行で相談するのがベストです。動画の仕様はブースの設計に、ブースの設計は動画の見せ方に影響するため、三者間で情報を密に連携させながら進めるのが成功の鍵です。
まとめ:成功するスケジュール管理チェックリスト
- 動画の目的(集客/滞留/商談化)は明確か?
- 会期日から逆算したスケジュールを立てているか?
- サイネージの仕様(解像度/比率/輝度)は確定しているか?
- 承認者は1〜2名に絞られているか?
- 修正回数と範囲のルールは合意できているか?
- 全体の10〜20%のバッファを確保しているか?
- 実機での再生テストは計画されているか?
これらのポイントを押さえ、計画的にプロジェクトを進めることが、展示会動画を成功に導く鍵となります。より詳細な戦略については、展示会動画の目的設計ガイドも併せてご覧ください。
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