展示会動画の目的設計:集客・滞留・商談化を最大化する動画の作り方

展示会への出展が決まり、「ブースで流す動画が必要だ」と考える担当者の方は多いでしょう。

しかし、多くの企業が「とりあえず会社紹介をループ再生しておけばいい」「既存のWeb用動画を流用しよう」と考えがちです。その結果、誰の足も止まらず、商談にもつながらない「ただ流れているだけの動画」になってしまうケースが後を絶ちません。

展示会という特殊な環境で動画の効果を最大化するには、明確な目的設計が不可欠です。優れた展示会動画は、「集客」「滞留」「商談化」という3つの重要な役割を果たします。

  • 集客動画:通路を歩く来場者の視線を一瞬で奪い、ブースへ引き込む「アイキャッチ」の役割。
  • 滞留動画:足を止めた来場者の興味を引きつけ、ブース内の滞在時間を延ばし、営業担当者が声をかける「きっかけ」を作る役割。
  • 商談化動画:製品・サービスの価値を深く理解させ、具体的なアクション(QRコード読み取り、名刺交換、デモ依頼)を促す「クロージング」の役割。

本記事は、これら3つの目的を達成するための動画制作の全手順を、実務経験豊富なプロの視点から体系的に解説する「展示会動画の完全ガイド」です。

目的設計からKPI設定、クリエイティブの要件、構成テンプレート、さらには当日運用やトラブル対策まで、担当者が知るべきすべてを網羅します。この記事を読めば、成果につながる展示会動画の作り方が明確になり、自信を持って制作会社への発注や社内調整を進められるようになるでしょう。

目次

目的・KPI設計:成果を可視化する指標と測定方法

展示会動画の制作は、「どのような映像にしたいか」から始めるのではなく、「動画で何を達成したいか」という目的(KGI)と、その達成度を測る指標(KPI)を明確にすることから始まります。目的が曖昧なままでは、制作会社に的確な指示を出せず、効果測定もできないため、投資対効果を説明できません。

目的とKPIのマッピング表

まずは、展示会動画で達成したい目的と、それを計測するためのKPIを具体的に設定しましょう。

以下は、目的とKPI、測定方法、改善打ち手と対応を紐づけた例です。自社の状況に合わせてカスタマイズしてご活用ください。

目的KPI測定方法会場導線目安改善打ち手
集客(足を止める)ブース前通行者のうち、動画に視線を向けた人の割合(注目率)・スタッフによる目視カウント
・AIカメラによる視線計測
通路に面した入口付近5〜10%・アイキャッチの強化
・テロップサイズの拡大
・動きの緩急をつける
滞留(興味を引く)動画を視聴し始めた人の平均滞留時間・ストップウォッチ計測
・AIカメラによる滞留時間計測
ブース内部(やや奥)30〜60秒・構成の見直し
・情報量の調整
・ナレーションの追加(可能な場合)
商談化(行動を促す)動画内QRコードの読み取り数/遷移率・UTM付きURLの解析
・QR読み取り回数の計測
商談スペース、製品デモ横視聴者の1〜3%・QR表示時間の延長
・インセンティブの提示
・短縮URLの活用
リード獲得動画視聴を起点とした名刺・リード数・スタッフのヒアリング記録
・バーコードリーダーのスキャンログ
ブース全体・動画とスタッフの連携強化
・CTAの明確化

フェーズ別KPI管理

展示会動画の役割は会期中だけではありません。事前・会期中・事後の各フェーズでKPIを設定し、一貫したマーケティング活動として効果を最大化しましょう。

フェーズ目的主KPIアクション例
事前来場予告・ブースへの期待感醸成・動画再生回数
・LP遷移率
・事前アポ数
・ティザー動画をSNS/広告で配信
・動画付き出展案内をメルマガ送付
会期中集客・滞留・商談化・注目率
・平均滞留時間
・QR遷移数
・獲得リード数
・目的別動画を各サイネージでループ再生
・スタッフが動画をフックに声がけ
事後商談化促進・ナーチャリング・御礼メールの開封率/CTR
・動画の再視聴回数
・アポ獲得率
・会期中動画を編集し御礼メールで案内
・Web/SNSでアーカイブ配信

会期中動画のクリエイティブ要件:無音・ループ前提の鉄則

展示会場は多くのブースがひしめき合い、さまざまな音や光が飛び交う特殊な環境です。Web動画と同じ感覚で制作してしまうと、ほとんど伝わらない動画になってしまいます。ここでは、無音・ループ再生を前提とした展示会動画ならではの要件を解説します。

画面仕様:比率・解像度・輝度

項目解説確認事項
画面比率一般的なモニターは16:9(横)。縦型サイネージでは9:16が主流。LEDウォール等は特殊比率の場合があるため要確認。・正確な画面比率
・マルチディスプレイの有無
解像度フルHD(1920×1080)が一般的。4K(3840×2160)対応も増加。解像度が高いほど精細だが、ファイルサイズも大きくなる。・モニター/再生機器の対応解像度
輝度・コントラスト会場は明るいため、家庭用TV(300〜500cd/㎡)より高輝度な業務用(700cd/㎡以上)が望ましい。コントラスト比も重要。・輝度(cd/㎡)
・コントラスト比

尺の使い分け:3秒で惹きつけ、30秒で誘導、120秒で理解

  • 3〜5秒(アイキャッチ):通路に面した最も目立つ場所で視線を奪う。最強カットや強いコピーを高速表示。
  • 15〜30秒(誘導):ブースに入りかけた来場者向け。課題提示→解決の流れを簡潔にまとめ、次アクションを促す。
  • 60〜120秒(解説):商談スペースやデモ横で、導入事例・技術解説・お客様の声で理解と信頼を醸成。

無音・ループ設計のポイント

  • 無音設計:ナレーションに頼らず、テロップとグラフィックでも伝わるように工夫する。テロップは遠目でも読める文字サイズ(画面縦幅の約1/10)と十分なコントラストを確保。
  • ループ設計:最後と最初を自然につなげる編集でシームレスループ化。長い黒画面や静止ロゴで終わらせない。再生機器のループ設定は事前検証する。

QRコード・CTAの見せ方

  • 視認性の確保:QRは十分なサイズ(画面縦幅の1/5以上)と余白、背景とのコントラストを確保。
  • 表示時間:スマホの取り出し〜読み取りを想定し、最低10〜15秒は静止表示。
  • インセンティブ:「限定資料DL」「ノベルティ進呈」など読み取る利点を明示。
  • URLの工夫:UTMで計測可能に。長いURLはQRのドットが細かくなり読み取り精度が下がるため、短縮URLを活用。

構成テンプレート&台本サンプル:尺別の最適構成

前章の考え方を踏まえ、尺ごとの構成テンプレートとテロップ例を示します。自社の製品・サービスに合わせてカスタマイズしてください。

15秒構成(誘導用)

  • 目的:課題を提示し、解決を示唆して「詳細視聴/声がけ」へ誘導。

構成:

  1. 課題提起(3秒)
  2. 解決策の提示(5秒)
  3. ベネフィット(5秒)
  4. アクション誘導(2秒)

台本サンプル(SaaS)

時間テロップ画(イメージ)
0〜3秒「日々の報告書作成、まだ手作業ですか?」書類の山に埋もれる担当者のイラスト
4〜8秒AIが自動でレポートを生成PC画面上でレポートが自動作成されるデモ
9〜13秒作業時間を90%削減削減時間で別業務に取り組む担当者
14〜15秒詳しくはブースでブース内へ誘導する矢印アニメーション

60秒構成(解説用)

  • 目的:全体像と導入メリットを伝え、理解と納得を獲得。

構成:

  1. 課題提起(5秒)
  2. 製品/サービス概要(15秒)
  3. 3つの特長(20秒)
  4. 導入事例/お客様の声(10秒)
  5. CTA(10秒)

台本サンプル(製造業向けシステム)

時間テロップ画(イメージ)
0〜5秒「熟練ノウハウ、どう継承しますか?」悩む経営者と若手技術者
6〜20秒匠の技をデジタル化する 技術継承システム「TechForward」ロゴと実際の操作画面
21〜40秒Point1:タブレットで簡単記録
Point2:AIが手順を自動マニュアル化
Point3:いつでもどこでも動画学習
各特長をアイコンと短いデモで紹介
41〜50秒導入企業A社「教育コストが半分に」担当者インタビュー風イメージ
51〜60秒【ブース限定】事例集プレゼント|QRからQRコードと資料表紙イメージ

当日運用・納品仕様:トラブルを防ぐ実務

動画が完成しても、当日の運用でトラブルが起きては元も子もありません。安定再生のための仕様とオペレーションを事前に整えましょう。

納品ファイル形式とコーデック

項目推奨仕様(一般的なPC再生)ポイント
ファイル形式MP4最も汎用的で多くの機器で再生可能。
映像コーデックH.264 / AVC圧縮率と画質のバランス良。H.265/HEVCは高画質だが古いPCで非対応の可能性。
音声コーデックAAC無音でも音声トラック付きでの書き出しが一般的。
ビットレート10〜20Mbps(フルHD)高すぎると容量過大、低すぎると画質劣化。機器スペックに合わせて調整。

当日のオペレーションと緊急時対応

  • 再生テスト:前日までに実機(PC/モニター/ケーブル)で必ずテスト。ループの継ぎ目、画質、比率を確認。
  • バックアップ:予備PC、複数のUSB、クラウド保管で多重化。
  • 電源管理:スリープ/スクリーンセーバー無効化。電源ケーブルは養生テープで固定。
  • 簡易マニュアル:再生手順とトラブル対処(再生停止、無映像時など)を紙1枚にまとめ、全員が対応可能に。

制作スケジュールと進行のポイント

展示会動画の制作期間は、標準で1.5〜2ヶ月が目安です。これは企画から納品までがスムーズに進んだ場合のモデルで、社内確認や承認、素材提供に時間を要すると延びがちです。

標準的な制作スケジュール(2ヶ月モデル)

フェーズ工程期間目安主な作業発注側のタスク
1. 企画・準備キックオフ〜構成FIX1〜2週間・目的/KPI/ターゲット共有
・構成案/絵コンテ作成
・オリエン
・資料/素材提供
・構成確認とFB
2. 制作・編集デザイン〜初稿2〜3週間・デザイン/イラスト/CG
・必要に応じ撮影
・編集/テロップ
・デザインテイスト確認
・撮影立ち会い(任意)
3. レビュー・修正初稿レビュー〜修正1〜2週間・修正反映
・BGM/SE調整
・関係各所確認依頼
・修正指示の集約
4. 納品・最終確認最終版〜実機テスト1週間・複数フォーマット書き出し
・再生テスト支援
・最終確認
・実機での再生テスト

【実務者の本音】
最も遅延しやすいのが「レビュー・修正」フェーズ。関係者が多いとFBが分散し、「言った/言わない」問題が起こりがちです。修正指示は担当者に集約し、テキストで明確に伝えるルールを徹底しましょう。

短納期(1ヶ月)で間に合わせるには?

  • 既存アセットの徹底活用:3DCG、Web画像、過去動画の流用で新規撮影/CGを最小化。
  • テンプレート活用:制作会社のデザイン/構成テンプレで企画〜デザインを短縮。
  • 意思決定の迅速化:確認者を最小限に絞り、レビューは2〜3日に限定。修正は1回に集約する前提を合意。
  • コミュニケーション効率化:毎日または隔日で定例。チャットで課題共有を即時化。

FAQ:よくある質問

展示会動画の費用相場は?

動画の尺や内容で変動しますが、30秒〜1分のモーショングラフィックスで30〜70万円がボリュームゾーン。実写撮影や複雑なCGが加わると100万円超もあります。

音声やBGMは必要ですか?

会場は騒がしく音声が聞こえにくい可能性があること、また、歩きながら短時間で情報の要否を判断されてしまうため、できるだけナレーションがなくても瞬時に伝わるように設計することが重要。

Web用の動画は流用できますか?

流用可能ですが、推奨しません。Web動画は音声前提・小さなテロップが多く、無音の展示会では情報が伝わりにくい。展示会用に無音・ループ前提で再設計しましょう。

修正は何回まで無料ですか?

契約によりますが、初稿後の修正2回までが一般的。3回目以降や大幅な構成変更は追加費用になりやすいため、指示は慎重に。

まとめ:成果を出す展示会動画制作チェックリスト

発注から当日運用まで、以下のポイントを満たしているか最終確認しましょう。

  • 【企画】目的(集客/滞留/商談化)は明確か?
  • 【企画】KPI(注目率/滞留時間/QR読取数など)は設定したか?
  • 【制作】モニター仕様(比率/解像度)は確認済みか?
  • 【制作】無音でも伝わるテロップ設計か?
  • 【制作】シームレスなループ編集になっているか?
  • 【制作】CTA(QR等)のサイズ・表示時間は十分か?
  • 【進行】レビュー担当を絞り、指示を一元化できているか?
  • 【進行】スケジュールにバッファがあるか?
  • 【運用】本番同等の機材で再生テストを完了したか?
  • 【運用】予備PC/USB/クラウドなどバックアップは万全か?

展示会動画は、目的を明確にし、会場の特性を理解した上で制作すれば強力なマーケティングツールになります。専門性が高く内製だけでは難しい場合は、外部のプロと連携して最短距離で成果を目指しましょう。

企画や制作でお困りの際は、ぜひ一度、私たちにご相談ください。BtoB企業の動画制作支援実績を基に、貴社の目的達成に最適なプランをご提案します。

情報整理や予算の検討などの事前準備がご不安な方は筆者がお手伝いいたします。
是非、下のボタンからお気軽にお問い合わせください。

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この記事を書いた人

【株式会社case 代表取締役 / 動画制作プロデューサー】
新卒で入社した動画制作会社で広告・マーケティング・採用・人材研修など約400本の動画制作に携わる。その後、TVCMなどの制作を行う、大手制作会社にアカウントエグゼクティブとしてジョイン。数千万円規模のプロモーション案件に携わり、動画にとどまらないクリエイティブ制作やプロジェクトマネジメントを経験。現在は本メディアの運営を通じた企業の動画制作支援や、動画制作会社の営業支援などを行う。

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